別様の作動 -1/27@トッパンホール-
★その13★
②音階・音列・クラスターを巡って--WebernのBACH音型---
最近、沈孝静さんの「フェルドマンの《ヴァイオリンと管弦楽》におけるウェーベルンの影」論文を再拝読しています🥹✨〜お茶の水大学のリポジトリ
私が今度のリサイタルの最後、『ブーレーズ:第2ソナタ』の4楽章のコーダの最後で、Bach音型の逆行形でシンメトリーが閉じられる瞬間を奏でる時、きっと沈さんと「繋がる」気がするのです…!🕊️✨
そんな予感を彼女の論文から感じたので、何とか今日も書き綴ってみます📝
日本全国の色々な分野の学生さんから先生方の汗水滲んだ渾身の論文をリポジトリからありがたく読ませて頂く事は、私の密かな楽しみになっています😊
今年は、沈さんが亡くなってから3年の時を経て、ようやく近藤譲先生を囲んで皆んなで「偲ぶ会」で集うことが出来たので、まずは前向きで明るい年だったと思えます✨
---フェルドマンの死後、見えなかった奥の本棚にずらっと12音技法の本があった
そんな衝撃的なお話をしてくださったのはこの夏の沈さん追悼会での近藤譲先生のお話。
そして、私にフェルドマンの方向へ誘ってくださったのは沈さんと同じく博士論文がフェルドマン研究だった星谷丈生さんのひとこと。
今回の星谷さんのピアノ曲『四季』は、“フェルドマンの和音の作り方と基本は同じ”とのこと。
そう、視覚的にこの拡大譜面には一見クラスターと思われる真っ黒な密集がたくさん現れるのだけれど、そのそれぞれの密度には無限に感じさせるほどの差異があり、その塊の内容の変化に㊙️がありありと思っていました💡
・半音階のクラスターをオクターヴ置換したり
・少しだけクラスターに隙間を作る…
・そして、調的な和音が形作られる
こうしたフェルドマンの特徴が、星谷譜面にも息づいていて、ようやっと、星谷ポリフォニーの正体がわかってきたわけです🤔
しかし、
分かった=良い演奏
ではないわけで、「ふと浮かび上がる創発感」を演奏で実現できた時こそ、フェルドマンが導き出した、「個々の音それ自体の固有の存在性」が浮かび上がるというものかと✨
ということで、フェルドマンが何らかの「音列」にかかわって創作してきた事が分かってきた。
そして、後年、沈さんが研究された『ヴァイオリンと管弦楽』(1979年)では、フェルドマンはついにウェーベルンの『弦楽四重奏op.28』の音列マトリックス音型、しかもBACH音型としても知られるこちらを引用した!
この作品、元の題名は『Why Webern』だったと…
ここでピンと閃いたのがその前年1978年のフェルドマンの『Why patterns?』。実は私にとって唯一のフェルドマン体験はこの曲💡2010年に国立音大での「聞き伝わるもの、聴き伝えるもの』で舞踏家:田中泯さんと共演した刺激的な30分のfl.とvib.とのトリオだった。
この作品にも初っ端からfl.声部に「c-h-des-c」のBACH音型の展開が登場する。正に上記で触れた「置換技」に溢れていました!
ピアノパートは乖離と密集の2音ずつの重音で進むけど、時折内容はBACH音型の置換になっている…
そして30分間長い歩みを可能にしているのは、ジリジリとした行きつ戻りつの半音階進行…最後のコーダでは2音の半音のパターンのfl.とvib.に挟まれてピアノは静かにゆっくり半音階下降…
こういうこと、2010年の時点でまったく分からなかった😣💦沈さんと星谷さんが私に13年前の演奏記憶にそっと結びつけてくれました♡
実はこの演奏後の打ち上げで、福士則夫先生がそっと私に「あなたにFeldman合っているのではないですか?」と声を掛けてくださったことを、ふと思い出しました🥹
そうそう、ここで沈さんの『ヴァイオリンと管弦楽』に戻るけれど、フェルドマンはこう言ったという。
---シンメトリーは私の好みではないが、その瞬間には私は美しいシンメトリーが必要であった。それから私は完璧なシンメトリーの原型であるウェーベルンの音列を引用した---
ここで、ブーレーズの第2ソナタなのです🥹💖
このソナタの第2楽章の冒頭と最後と、4楽章の最後は、音列(やフーガ主題の音列)がシンメトリーになって立ち返ってくる!
茂みのように増殖していく偏愛があるにも関わらず、なぜこんなに綺麗にシンメトリーで曲を閉じようとするのか、私はブーレーズの意図をなかなか掴めずにいました🤔
この2楽章はトロープ(大変奏曲)で書かれていて、第3ソナタのあのトロープの前哨戦のような大事な楽章。
Boulez著『現代音楽を考える』の中で、第3ソナタのトロープの詳細な説明に入る前に、ブーレーズはまずウェーベルンの、フェルドマンが引用した「マトリックス・BACH音型」を取り上げています。
全ては、このウェーベルンのBACH音型から始まった…
「Why Webern」がフェルドマンにとって『ヴァイオリンと管弦楽』なら、
ブーレーズにとっての「Why Webern」はこの第2ソナタと言えるかもしれない。
ブーレーズはあまりにも、(多少のリズムや音価の対称のズレを含みながらも)あまりにも完璧にシンメトリーを奏でている…♬
ここを演奏する時、私は背筋が伸びる気持ちです。そしてまたここに、新たに沈さんが教えてくれたフェルドマンの美しい意図もウェーベルンを介した向こう側に感じることになるんだわ✨
今回は、「対立」を廃したくて敢えてクセナキスとブーレーズを置きました。
ここに更に、ウェーベルンという見えない仲介者を通して、フェルドマンとブーレーズという2人がシンメトリーを通して呼応しているファンタジーを感じて…🥹
それはこのフェルドマンの言葉がそうさせます。
---音程や音高より楽器の音色と音域がより大事である---
これを拡大解釈して、ブーレーズの目指したアウラを音で表したいです✨
あと1ヶ月弱、どんな創発が待っているのか楽しみに準備したいと思います!
この挑戦、どうぞお聴き届けください😇
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瀬川裕美子ピアノリサイタル-BOULEZ:第2ソナタ 別様の作動,2公演企画
vol.10 【その2】 2024年 1月27日(土)
開演 16:00 開場 15:30 @ トッパンホール
植物的で不可思議な: to B 個体・ほころび・創発
・ルイ・クープラン:フローベルガー氏の模倣による前奏曲
・クセナキス:霧(ミスツ)
・バルトーク:戸外にて
・J.S.バッハ:イギリス組曲 第3番 ト短調 作品808
・シェーンベルク:3つのピアノ曲 作品11ー3
・・・
・星谷丈生:四季 -ピアノのための-(2016)
・ブーレーズ:ピアノソナタ第2番(1947-48)【全4楽章】
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トッパンホールチケットセンター
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